連載『Belle's Farm』|プロローグ 最後の一羽|清水むつみ|養鶏家×ライター
体温、四十二度。 それは思っていたよりも温かい。 腕の中でおとなしく抱かれた最後の一羽は、いつもと変わらない瞳で私を見ていた。何度も抱き上げてきた身体だ。羽の感触も、重さも、一見無機質な脚のぬくもりすら知っている。 私は左手で首元を撫でながら、指先で頸動脈を探した。 初めて鶏を捌いた日には、首に触れてもこの太い血管の位置を探り当てることはできなかった。研修先の師匠に「この辺りだ」と教えられるまま牛刀を入れただけ。命を奪うことの恐怖と、それによる緊張に支配され、どこに命が流れているのかなんて考える余裕はなかった。 今は違う。 指先は迷わない。 牛刀を当て、静かに引く。 最
https://note.com/bellesfarm/n/n2ba02ec16041